『CrazySexyCool』を1,000万枚以上売ったのに、なぜTLCは破産したのか?
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更新日:4 時間前

「私たちはこれ以上ないほど一文無し」
'96年2月28日。
米ロサンゼルスで開催された第38回グラミー賞で、まさにキャリアの頂点に到達したTLC。
前年にリリースしたセカンド・アルバム『CrazySexyCool』は、「Creep」「Waterfalls」「Red Light Special」「Diggin' on You」といったヒットを次々と生み出し、世界的な大成功を記録。
TLC - Diggin' On You
そしてこの夜、彼女たちは「Best R&B Album」を含む2部門を受賞。
しかし、その華やかな舞台の裏側で、彼女たちは世間のイメージとはまったく違う現実を抱えており、グラミー賞の記者会見で、メンバーはグループの現状について次のように言及。
まず、T-Bozがコメント。
「言えることは、『すべてが私たちの望んでいたように、進んでいるわけではない』ということ」
続けてChilliがコメント。
「もう何も取り繕うつもりはないわ。こう言えば分かりやすいと思う。私たちは史上最も多くの作品を売り上げた女性グループで、世界で1,000万枚のアルバムを売った。私たちは本当に一生懸命やってきた。この業界で5年間頑張ってきた。それなのに、私たちはこれ以上ないほど一文無しなのよ。私たちがこれだけたくさんのアルバムを売っているから、そんなことは信じられないかもしれない。でも、実際にそういうことは起こり得るの。これが現実なのよ。私たちはまったく満足していないわ」
そしてLeft Eyeも次のように言及。
「今はすべてを話すことはできない。でも、信じて。1,000万枚のアルバムを売ったって、背後に強欲な人間がいれば、一文無しになることはあるのよ」

当時の報道によると、Chilliは自分たちには家も車もなく、アトランタで暮らすためのアパートを借りる際にも、所属レーベル[LaFace Records]の援助を必要としていたという。
『CrazySexyCool』は、リリースから約1年半の間に世界で約1,000万枚を売り上げる大ヒットを記録。
さらに、デビュー作『Ooooooohhh... On the TLC Tip』と『CrazySexyCool』の2作だけで、世界の店頭売上は推定1億7,500万ドル(当時の為替レートで約140億〜175億円)にも達していたという。
それにもかかわらず、TLCのメンバーは、自分たちの生活を支えるだけの資金さえ十分に持っていなかったと暴露。
アルバム2枚が1,400万枚以上売れても、なぜTLCの手元には金が残らなかったのか。
TLC - CrazySexyCool
TLCの手元にお金が残らない契約
Left Eyeが語った内容によると、TLCはグラミー賞でパフォーマンスを披露しただけで、さらに深刻な負債を抱えることになったという。
授賞式でのパフォーマンスにかかった、TLC本人たち、ダンサー、そしてツアー・スタッフの費用として、数万ドルもの金額が、今後TLCに支払われるロイヤリティ収入から差し引かれることに。
さらに、グラミー賞の際に「Four Seasons Hotel」で約20万ドル(約2,000万円)が使われ、その中にはギフトショップだけで約2万2,000ドル(約220万円)もの支出が含まれており、度を越した出費があったと主張。
Left Eyeは、この件に関して次のようにコメント。
「私たちが歴史に名を残すとしたら、ただ有名になった挙げ句、搾取されたアーティストの一組としてではなく、何かもっと別の存在として記憶されたい。1,400万枚ものレコードを売ったグループが、これほどひどい扱いを受けるなんて、本当に信じられない。でも、考えてみて。ここは、欲深い人間たちが世間知らずな若いアーティストにつけ込む、弱肉強食の世界なのよ」

TLCは、1991年に[LaFace Records]と契約を結んでおり、アルバム1枚の売上につき約7%のロイヤリティを受け取る契約になっていたという。
ただし、これはアルバムの販売価格の7%が、そのままTLCの3人に支払われるという意味ではなく、レコード会社によって、パッケージング費用やプロモーション用の無料配布分、その他の経費などが差し引かれるため、実際にTLCに計上される金額は、1枚につき約60セント。
さらに、そこからレコーディング費、ミュージック・ビデオ制作費、ラジオ・プロモーション費、ツアー・サポート費など、レコード会社が先に立て替えた費用が、TLCのロイヤリティから回収される流れ。
つまり、アルバムがいくら売れても、まずはこうした回収対象となる費用がTLCのロイヤリティから差し引かれ、それを上回る段階に達しなければ、TLCに実質的な印税収入が1セントも支払われることはないという仕組み。
アナリストの計算によれば、最終的にTLCの3人が利益として分け合える金額は、アルバム1枚につき約20セント。
単純に3人で均等に分けた場合、1人あたり約6〜7セントという計算。
しかし、TLCのメンバーが、アルバム1枚売れるにつき約7セントを受け取れるとした場合、『CrazySexyCool』の売上を当時報じられていた約1,000万枚として単純計算すると、1人が受け取る金額は約70万ドル(約7,000万円)、という単純な話にはならないのが、ロイヤリティの仕組み。
TLCのメンバーに実際のロイヤリティ収入が支払われるのは、レコード会社が先行して負担した回収対象費用のリクープメント(費用回収)が完了した後の話。
つまり、「何枚売れたか」だけではなく、何枚売れた時点でリクープメント(費用回収)が完了したのかが非常に重要。
以下が、かなり単純化した計算のイメージ。
・1枚売れるごとにTLCに計上されるロイヤリティ|約60セント
・そこからレコーディング、ミュージック・ビデオ、ツアー・サポートなどの回収対象費用を回収
・リクープメント後、TLCの3人が利益として分け合う金額|アルバム1枚あたり約20セント
仮に回収対象費用が500万ドル(約5億円)なら、「500万ドル ÷ 0.60ドル = 約833万枚」という計算。
つまり、この単純化した例では、約833万枚売れて初めてリクープメントが完了。
そして、「リクープメントが完了して初めて、その後に発生するロイヤリティがTLCにとって実質的な収入として残っていく」という仕組み。
しかし、'90年代の米国メジャー・レーベル契約、特に新人アーティストとのレコーディング契約では、レーベルが先に費用を負担し、それを後からアーティストのロイヤリティからリクープするという仕組みは、程度の差こそあれ、一般的な契約形態。
TLCの場合、話をより複雑にしていたのが、Pebblesとの関係。
TLCはデビュー前、歌手としても活動していたPebblesによって見出され、彼女が設立したプロダクション会社[Pebbitone Inc.]と契約を締結。

そして、TLCと[LaFace Records]との契約とは別に、[Pebbitone]と[LaFace Records]との間にも、TLCの録音物をめぐる契約が結ばれていたという。
当時の報道によれば、[LaFace Records]はTLCのアルバムが売れるたびに、その売上に対して[Pebbitone]へ15%のロイヤリティを支払う契約を結んでいたとのこと。
つまりTLCの場合、彼女たちの収益から、マネージャーであるPebbles側にも取り分が生じる契約構造になっていたことも、彼女たちが十分な収益を得られなかった一因。
事実、当時のインタビューでChilliはこのように発言。
「活動を始めたばかりの頃は、とにかく人を信じてしまうものよ。業界への入り口に足を踏み入れられるだけで、幸運だと思ってしまう。でも、自分たちが大きくなればなるほど、私たちの懐からお金を抜こうとする人の手が増えていく。プロデューサーたちが私たちのレコードを作る手助けをしてくれたことは分かっている。でも、私たち以外の全員が、私たちの成功で儲けているのを見続けることには、もううんざりなの」

TLCはその後、世界的なスターへと成長していく一方で、自分たちの成功に見合うだけの収入を得られていないことへの不満、そして契約内容そのものへの強い疑問が募っていったという流れ。
実際、当時の報道では、T-Boz、Left Eye、Chilliの3人が年間で受け取っていた額は約5万ドル(約500万円)程度に過ぎず、世界的なスターとしては極めて低い水準の収入だったという。
つまり、TLCの手元に多額のお金が渡らなかったのは、 「売れても、その売上が自分たちの手元に残りにくい契約内容が原因だった」と言えそう。

PebblesとL.A. Reid
ここまでの流れを踏まえると、
さらに、Pebblesと[LaFace Records]の創設者L.A. Reidが当時夫婦だったことも、この一件を語る上で無視できないポイント。
TLCは当初、Left Eye、T-Boz、そしてChilliではなくCrystal Jonesの3人で結成。

Crystalは、Left EyeやT-Bozよりも以前から音楽業界に身を置いていたため、アーティスト契約についても多少の知識を持っていたとのこと。
しかし、提示された契約書には専門的な用語が並び、その場で内容を理解するのは容易ではなかったため、Crystalは、契約書を一度家に持ち帰り、母親にも確認してもらいたいとPebblesに提案。
しかし、Pebblesは次のように返答。
「絶対にダメ」
このPebblesの対応に不信感を抱いたCrystalは、TLCが本格的に始動する前にグループを去ることに。
もちろん、この時点でPebblesにTLCから利益を搾取する意図があったと断定することはできない。
ただ、もし仮にそうした意図があったのだとすれば、契約内容を確認しようとするCrystalの存在を、Pebblesが快く思わなかったとしても不思議ではない話。
そして、Pebblesの夫だったL.A. Reidもまた、当時「Creep」のミュージック・ビデオ制作で2度の失敗を経験し、多額の損失を抱えていた時期。
ミュージック・ビデオの失敗や、その費用の返済について問われた際、L.A.は当時のインタビューで、次のようにコメント。
「こういう風に考えてみよう。俺たちは『CrazySexyCool』を1,000万枚売ったんだ。本当のことを言えば、俺にも返済されたかどうかは分からない。そうやっていつも俺は墓穴を掘るんだ、分かってないからね。俺は素晴らしいレコードやビデオを作ることばかりに必死になって、他人の金を使い込んでいることに気づかないんだよ」
TLC - Creep
この発言が事実だとすれば、少なくとも当時のL.A.自身も、レコードやミュージック・ビデオの制作に巨額の費用を投じながら、その費用が最終的に誰の負担となっていたのかを把握できていなかったということに。
そして、もし「Creep」のミュージック・ビデオで失敗した2度分の制作費までTLC側の収益から回収されていたのだとすれば、彼女たちは自分たちの責任とは言い難い費用まで背負わされていた可能性も。
真相は定かではないものの、TLCが置かれていた契約上の立場を考える上でも、L.A.とPebbles夫妻の存在は非常に重要なポイント。

TLCは破産保護を申請
そしてTLCは'95年7月3日、約350万ドル(約3億5,000万円)の負債を抱えて、Chapter 11(米連邦破産法第11章)による破産保護を申請。
一方で、レコード会社側は、アルバム制作やミュージック・ビデオ、プロモーション、ツアーなどに巨額の費用を投じており、それらを回収する権利が契約上認められていると主張。
また、レコード業界の多くの幹部は、低い報酬の長期契約がなければ、無名アーティストのキャリアを育てるために莫大な費用を負担する動機がなくなるとも主張。
TLCの音楽を流通していた[Arista Records]の経営幹部だったRoy Lottは、この件に関して次のように言及。
「彼女たちは決して貧困状態で暮らしているわけではありません。この破産申請は、契約を破棄するための策略にすぎないのです」
[Arista Records]と[LaFace Records]の幹部は、TLCにはこの争いを解決する意思がなく、破産申請を利用して、最終的には別のレコード会社からより有利な契約を獲得しようとしているのだと示唆。
T-Bozは、当時のインタビューで次のようにコメント。
「今では誰もが私たちをスターとして扱ってくれる。でも、自分たちのレコード会社だけは別。契約したとき、私たちは、もし大量にレコードを売れば、もっと良い条件にしてくれるものだと思っていた。でも、どれだけレコードを売っても、どれだけ賞を取っても、私たちをまるでゴミのように扱うだけなの」

レコード会社は、成功を収めた新人アーティストに歩み寄り、追加アルバムの制作を条件に契約をより有利なものへ変更するケースも一般的で、例えばBoyz II Menは、追加で1~2枚のアルバムを制作することと引き換えに、それまでの活動に対するボーナスを遡って受け取り、さらに高いロイヤリティ率を獲得。
しかし、レコード会社には法律上、そうした契約変更に応じる義務はなく、そのため、ひとたびアーティストが長期契約を結んでしまえば、その契約から抜け出すことはほぼ不可能という現実。
そして、有名ロック・スターなどを担当する弁護士Eric Greenspanは、すべてのレコード会社がそこまで寛大なわけではないと警告。
「音楽業界における大きな嘘のひとつは、交渉の際に会社側の幹部がアーティストに『契約の細かいところは心配しなくていい。後で条件を見直してあげるから』と言うことだ。これはTLCだけの問題ではない。業界にいるすべての無名アーティストが抱えている問題だ。一度、契約書にサインしてしまえば、あとは会社の言いなりになるしかない」
このような背景もあり、TLCの3人は、自分たちの契約は不公平であり、その契約のせいで請求書を支払うことさえできない状態に陥っていると主張し、破産保護を申請。
その後、[LaFace Records]と[Arista Records]は交渉のテーブルにつき、両社はTLCの3人に対し、1,000万ドル(約10億円)のアドバンス(前払い金)を支払うことを提案。
ただし、その大部分は将来のロイヤリティから回収される条件。
さらに、追加で2枚のアルバムを制作することを条件に、ロイヤリティ率を18%に引き上げる案も提示。
これに対して、これまでに数々の音楽スターの契約問題を解決してきたTLCの弁護士Don Engelは、この提案を拒否。
その理由のひとつが、提案に「過去の売上に対する遡及的なボーナス」が一切含まれていなかったこと。
「TLCが生み出した利益がどう分配されているのか、私は詳しく知りません。でも、彼らはTLCに対して、補償として1セントたりとも提示していない。これはあまりにもひどい提案です。自分たちがどれほど悪く見えているのか、彼らには分からないのでしょうか?」
その後、TLCと数人の友人が[Arista Records]の最高経営責任者Clive Davisのオフィスに押しかけ、壁に飾られていたTLCの肖像が入った記念プレートをすべて持ち去るという騒動を起こし、大きな話題に。
TLC側は、自分たちはレコード会社からプラチナ・ディスクなどの受賞記念プレートを一度も受け取っておらず、契約交渉が一向に進展しないことへの苛立ちから、Cliveのもとへ押しかけたのだと説明。
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Left Eyeは当時次のようにコメント。
「この件に関わっている人たちは、みんな責任を他の誰かに押しつけている。だから私たちは、一番上にいる人間と直接話すことにしたの」
そして、その後の交渉で、TLCが[LaFace Records]から離脱して別レーベルへ移るのではなく、[LaFace Records]に残る代わりに、7%だったロイヤリティを18%へ引き上げ、約1,000万ドル(約10億円)のアドバンスを受け取り、[Pebbitone]との関係を清算することで決着。
つまり、TLCにとって破産保護申請は、契約の不公平さを世に訴え、過去の不利な契約を変え、より良い条件を勝ち取るための「最後のカード」だったと言えそう。
そしてChilliは、若いアーティストたちに次のように警告。
「これから契約を結ぼうとしている新人アーティストに私が言いたいのは、ただひとつ。ねえ、絶対に気をつけて。自分の身は自分で守らなきゃダメよ」






































