Mustardによって確立された「Ratchet(ラチェット)」、そしてそこから派生したR&B特化型のサブ・ジャンル「RnBass」
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2010年代を席巻したラチェット、そしてRnBass
2010年代初頭、世界のヒップホップ/R&Bシーンを席巻していたのは、プロデューサー/DJのMustard(マスタード)が確立した、極限まで音数を削ぎ落とした西海岸発のクラブ・サウンド「ラチェット」
もともと「ラチェット」という言葉は、'90年代後半に米ルイジアナ州シュリーブポート周辺のローカル・シーンで使われるようになったストリート・スラング。
Mustardは「LA Weekly」のインタビューで、「ラチェット」という言葉について次のように解説。
「ラチェットにはいろんな意味があるんだ。悪い意味のラチェットもあれば、良い意味のラチェットもある。楽しんだり、ゲットーなノリで盛り上がったりするのもラチェットだし、一方で『だらしない女』みたいな悪い意味で使われることもあるんだ」

当時の「Ratchet」は、「ガサツな」「下品な」「荒っぽい」「騒がしい」「品がない」といったニュアンスで使われることが多く、特に女性に対して「あの子はラチェットだ」と言うと、「だらしない」といった侮辱的な意味で使われたという。
ただ、その後は意味が広がり、「騒いで楽しむ」「ハメを外す」「パーティーで盛り上がる」というポジティブな意味でも使われるようになり、その流れを象徴する楽曲となったのが、ルイジアナのラッパーLil Boosieが2006年に発表した「Do tha Ratchet」
Lil Boosie - Do Tha Ratchet feat. Lava House, Ratchet King & Untame Mayne
この流れを受けて、Mustardは西海岸のクラブ・サウンドをさらに研ぎ澄まし、2011年にTygaの「Rack City」をプロデュース。
この曲は、後に「ラチェット・ミュージック」と呼ばれるムーブメントがメインストリームへと拡張していく初期の象徴的ヒットであり、その後のブーム形成に大きな影響を与えることに。
Tyga - Rack City
当時のMustardは圧倒的な影響力を持っていたゆえに、「ラチェット・ミュージック」という呼称自体を彼が生み出したかのように語られることも多く、しかしMustard本人はそれを明確に否定。
「XXL」のインタビューで、Mustardはこのサウンドについて次のように言及。
「ラチェットをやらないわけじゃない。だけど、自分を1つの枠にはめられて、そういう音楽しか作れない人間だとは思われたくないんだ。『ラチェット』という枠自体は気に入っている。でも、みんなに誤解してほしくないのは、俺たちはあれをLil Boosieから受け継いだっていうことだ。だからこそ、ロサンゼルスのみんなが『ラチェット、ラチェット、ラチェット』って口を揃えて言っていた時期があったけれど、あれは全員Lil Boosieから得たものなんだよ。認めるべき功績は、きちんと認めなきゃいけない」
そして、このラチェットというムーブメントの中から派生していったのが、R&B特化型のサブ・ジャンル「RnBass」
ラチェットの持つシンプルなビートと跳ねるような重低音をベースにしながら、そこに滑らかなボーカルやメロディ、コーラスワークを重ねた「歌モノ」として発展。
2010年代中期には、ラチェットという呼称が持つストリート由来のニュアンスに対し、より洗練されたR&B/ベース融合サウンドを説明するための業界的なタグとして「RnBass」という言葉が使われるようになり、当時のR&Bアーティストたちもこのサウンドに飛びつき、次々とヒット曲が誕生。
この記事では、2010年代に大きなムーブメントを生んだラチェットR&B、そしてRnBassを代表する楽曲を厳選して紹介。
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1. Chris Brown - Loyal feat. Lil Wayne, Tyga (2013)
各リンクから該当楽曲を再生できます
「Loyal」をプロデュースしたNic Nacは、ラチェットR&Bの歴史を語る上で欠かせないもう1人のキーマン。
DJ Mustardの「シンプルなビート」のノリを完璧にトレースしつつ、それをさらにキャッチーで大衆受けするポップスへと仕立てた、ラチェットR&Bを代表する1曲。
2. Omarion - Post To Be feat. Chris Brown, Jhene Aiko (2014)
Omarionのキャリアにおいて最大のヒットとなったのは、ソロ・デビュー初期の楽曲ではなく、ラチェットの要素を取り入れたこの「Post To Be」
しかし当時、このサウンドはまだR&Bの中でも斬新だったこともあり、レーベル側はここまでのヒットになるとは予想していなかったという。
3. Tinashe - 2 On feat. SchoolBoy Q (2013)
Mustardがプロデュースを担当した、2010年代を代表する歌姫Tinasheの衝撃のデビュー曲。
メディアがこぞって「RnBass」という新しいラベルを使い始めるきっかけとなった、文字通り「ゲーム・チェンジャー」となった1曲。
4. Adrian Marcel - 2AM. feat. Sage The Gemini (2014)
R&Bのメッカとして知られる米カリフォルニア州オークランド出身のAdrian Marcelは、同郷のレジェンドRaphael Saadiqにその才能を見出されたシンガーソングライター。
彼のキャリアで最大のヒットを記録したこの曲は、Chris Brown「Party」などを手掛けたヒットメイカーChrishanがプロデュースを担当。
5. TeeFLii - 24 Hours feat. 2 Chainz (2014).
[Epic Records]からデビューしたTeeFLiiの、唯一と言えるヒット曲ながら、ラチェットR&Bを語る上で欠かせない名曲のひとつ。
ロサンゼルスのストリートやクラブの匂いを100%残したままヒットした、RnBassの傑作。
6. Jeremih - Don't Tell 'Em feat. YG (2014)
全米のラジオやクラブを完全にロックし、全米シングル・チャート最高6位を記録する大ヒットとなったDon't Tell 'Em feat. YG」
この曲は商業的に大成功したものの、Music Videoが制作されておらず、2014年にMusic Video無しで全米シングル・チャートのトップ10入りを果たした唯一の楽曲。
7. Trey Songz - Na Na (2014)
全米シングル・チャートで最高21位を記録し、当時のクラブで大合唱を巻き起こした「Na Na」
本家Mustardによる直球のラチェット・ビートの上で鳴り響くあのキャッチーなメロディは、かつてFugeesも「Fu-Gee-La』」で引用した、'88年のTeena MarieによるR&Bクラシック「Ooo La La La」のフレーズが元ネタ。
8. Eric Bellinger - Valet feat. Fetty Wap, 2 Chainz (2016)
2015年、ラチェットR&Bのブームが成熟しきったタイミングでリリースされ、R&Bファンを魅了したEric Bellingerの「Valet」
従来のシンプルで攻撃的なサウンドをそのまま使うのではなく、彼らしいメロウなR&Bへとアップデート。
9. August Alsina - Numb feat. B.o.B, Yo Gotti (2013)
当時、多くのアーティストがクラブで大騒ぎするためのノリだったラチェット・ビートを使いながら、「ストリートの現実」を泥臭い歌声でリアルに歌い上げた1曲。
全米R&Bシングル・チャート最高38位を記録。
10. Kid Ink - Show Me feat. Chris Brown (2013)
Chris Brownによるどこまでも爽快で甘いフックと、Kid Inkの軽快なラップが完璧に融合したこの曲は、全米シングル・チャートで最高13位を記録。
この曲の元ネタは、'90年代に活躍した女性シンガーRobin Sによる'90年代ハウス名曲「Show Me Love」




































