量産型ラチェットへの回答。Kid Inkが「Body Language」でUsherやStargateを起用した理由とは。
- R&B SOURCE

- 6月10日
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2010年代初頭に大流行したラチェット・ミュージック
2010年代初頭、世界のヒップホップ/R&Bシーンを席巻していたサウンドといえば、プロデューサー/DJのMustard(マスタード)が確立した、極限まで音数を削ぎ落とした西海岸発のクラブ・ミュージック「ラチェット」

シンプルな電子音とクラップが鳴り響くその中毒的なバウンスは、瞬く間にメインストリームに浸透。
その狂騒のど真ん中にいたひとりが、米ロサンゼルス出身のラッパーKid Ink(キッド・インク)。
2013年、ラチェット・ミュージックの仕掛け人DJ Mustardがプロデュースを担当し、Chris Brownを迎えた「Show Me」が大ヒットしたことにより、彼は一躍ラチェット・ブームを牽引するアーティストとして注目を集めることに。
Kid Ink - Show Me feat. Chris Brown
ラチェット・サウンドは、「シンプルなドラム・パターン」「ミニマルなシンセ」「クラップ中心のビート」「定型化されたテンポや構成」といった特徴を持ち、制作コストや時間を比較的抑えやすかったことから、多くのプロデューサーがこのサウンドを模範。
しかし、その成功パターンが量産された結果、シーンが全体が「またこのビートか」という「ラチェット疲れ」を起こしてしまうことに。
そんな矢先、Kid Inkは自ら築いたトレンドに背を向ける形で発表したのが、Usher(アッシャー)と当時メジャー・デビュー直後のTinashe(ティナーシェ)、そして北欧のプロデューサーチームStargate(スターゲイト)を迎えたシングル「Body Language」
Kid Ink- Body Language feat. Usher, Tinashe
ラチェットをラグジュアリーにアップグレード
2014年当時、米国中のラジオやクラブは、Mustardが流行させたラチェット・ミュージック一色。
シーン全体が「どれを聴いても同じに聴こえる」という飽和状態に陥りつつあった中、Kid Inkは次のアルバム『Full Speed』のリード曲で、ラチェット特有のノリの良さを残しながらも、これまでとは異なるアプローチを打ち出すことを決断。
そこで白羽の矢が立ったのが、Ne-Yoの代表曲「So Sick」を筆頭に、2000年代に数々のR&Bヒットを量産したプロデューサー・デュオStargateと、幻想的なシンセと繊細なエレクトロニック・サウンドを武器に、ポップやR&Bシーンで高い評価を獲得しているCashmere Cat(カシミア・キャット)。

StargateとCashmere Cat。
共にノルウェー出身の彼らがこの曲のプロデュースを担当し、そして両者が目指したのはラチェット・ブームの否定ではなく、そのフォーマットを用いた「音響のラグジュアリー化」
ハンドクラップによる跳ねるグルーヴはそのままに、キャッチーなシンセとエモーショナルなコードワークを加えることで、ストリート発のクラブ・ミュージックを、より洗練されたヒップホップ/R&Bへとアップデートすることに成功。
このドラスティックなサウンドのアップデートは、かつてのニュー・ジャック・スウィングにおいて、Keith Sweat「I Want Her」やBobby Brown「My Prerogative」に代表されるタフで粗削りな初期サウンドに対し、Troop「Spread My Wings」が美しいメロウネスと清涼感を持ち込み、ジャンルを洗練へと導いた進化の系譜を想起。
そしてKid Inkは、この曲を制作していた時の状況を、「Billboard」のインタビューで次のようにコメント。
「俺はプロデューサーのStargate、Cashmere Catと一緒にスタジオに入っていて、アイデアを膨らませながら制作を進めていたんだ。そこへ、ちょうどUsherも自身の新作に取り組んでいると聞いて、この曲を送ってみた。すると彼のチームからすぐに良い反応が返ってきた。それから、俺がこの曲の女性ボーカル・パートを書いた時点で、Tinasheと組みたいというアイデアを思いついた。彼女とは同じレーベルで、普段から同じコミュニティにいたこともあって、話はとてもスムーズに進んだよ」

もしこの「Body Language」にChris Brownを起用していたら、当時Kid InkとChrisのコンビは「Show Me」「Main Chick」で連勝していたことから、この曲もヒットしていたことは確実。
しかし、その一方で「Kid Ink+Chris Brown=ラチェット」という成功方程式が完成していたからこそ、再び同じカードを切れば、楽曲は既存路線の延長として受け取られていた可能性は否定できず、Kid Inkが目指したであろう「量産型からの脱却」という目的は、この組み合わせでは成立しにくかったはず。
一方のUsherは、2012年の『Climax』を通じてエレクトロやオルタナティブR&Bの最先端をすでに経験しており、Cashmere Catのような浮遊感のある電子サウンドとの相性も抜群。
また彼は、'90年代からR&Bシーンの頂点に君臨してきた絶対的なレジェンド。
そのため、Usherの参加は楽曲に「クラシックの血統」を与えることを意味し、当時まだ新進気鋭のラッパーだったKid Inkにとって、Usherがラチェット特有の軽薄なパーティー感ではなく、大人の色気と圧倒的な歌唱力でフックを歌うという事実は、単に優れたシンガーを起用した以上の意味を持っていたはず。
それは、この曲が一過性のトレンドではなく、より普遍的な価値を持つ作品であることを示す、何よりの証明だったと言えそう。
そしてUsherと共にボーカルを担当したのは、当時デビュー・シングル「2 On feat. SchoolBoy Q」が大ヒットしていたTinasheで、この曲もラチェット・ブームを代表する1曲のひとつ。



































