
「鳥肌が立つような、そんな瞬間だった」
「エル・パソに引っ越すまでは、自分の居場所はどこにも無いと思っていた。この地で得た愛や友情が、自分に大きな影響を与えてくれた。エル・パソこそが、僕の始まりの地なんだ。もしあそこに行かなかったら、今のような音楽を作っていなかったと思う。高校ではみんながすごく応援してくれて、それがレコーディングへの興味を深めるきっかけになった。音楽をやりたい、レコーディングしたいという気持ちはずっとあったけど、自信がなかったんだ」
「El Paso Times」のインタビューにこのように答えたKhalidは、両親が軍人だったことから、幼少期は引っ越しを繰り返す生活を余儀なくされ、自身の音楽の原点だという米テキサス州エル・パソに移住したのは、高校の最終学年の時。
Khalidはエル・パソに移住する前、高校に進学してから楽曲制作は行なっており、彼がデビューへの大きな一歩を踏み出す転機となったのが、デビュー・シングル"Location"を手がけたプロデューサーSyk Senseとの運命的な出会い。
Syk Senseは、キャリア初期に米テネシー州ナッシュビルで行われたビート・バトルに出場し、優勝こそ逃したものの、審査員を務めていたプロデューサーBoi-1daにその才能を認められ、その後Drake"Know Yourself"をはじめ、Jamie Foxx, Ludacrisらへの楽曲提供を通じて2010年代中期に頭角を現したプロデューサー。
Khalildと出会うことになった経緯を、Syk Senseは「Billboard」のインタビューにて次のようにコメント。
「音楽についてよく話す友人がいて、彼が『これは凄い!』と思うアーティストをいつも俺に教えてくれたんだ。Khalidを見つけたのもその友人で、彼がKhalidに連絡を取り、俺に紹介してくれた。それでKhalidがアトランタに来て、一緒にスタジオにこもって制作を始めたんだ」

当時17歳だったKhalidは、その後数ヶ月にわたるセッションを経て"Location"を完成させることに。
しかし、出会ったばかりの頃はお互いを探り合う段階だったようで、数多くの楽曲を共に制作したものの、どれも求めていたサウンドには届かなかったとのこと。
当時の様子を、Khalidは「El Paso Times」のインタビューにて次のようにコメント。
「アトランタでレコーディングしたのは初めてで、最初にコーラスを録ったんだ。そこにはSyk Senseの他にも色々プロデューサーがいて、アトランタのカルチャーに触れてインスピレーションを受けながら、自分のサウンドを模索していた。でも、スタジオ・セッションが長引いたから、一度はもう辞めようと思ったんだ。でもSykが『続けたいか?』って聞いてきたから、俺は『もちろん、やるよ』って答えた」
Syk SenseはKhalidとの制作において、まずメロディを作り、それにビートを重ねるスタイルを取っていたようで、ある日スタジオで"Location"のメロディを何気なく流したところ、Khalidが即座に「ちょっと待って、これに歌詞をつけてみる」と反応し、その場で印象的なフックを歌い始めたのが、後の名曲"Location"誕生の瞬間だったとのこと。
Syk Senseは、Khalidと"Location"を制作した時の様子を、「Billboard」のインタビューにて次のようにコメント。
「Khalidのフックを聴いた瞬間、俺は『これは特別な曲になる』と確信したよ。まだドラムも入れてなかったのに、心の奥から湧き上がる感覚があったんだ。鳥肌が立つような、そんな瞬間だった。誰かが自分の才能を最大限に発揮する瞬間を目の当たりにするのは、本当に感動的だよ。この時、Khalidはまだレーベル契約すら無かったんだ。何を目指しているのかは分かっていたけど、あの時点ではどうやって成功するのかは分からなかった。でも、彼の旅に少しでも関われたことを、ただただ嬉しく思ってる」
"Location"のプロデュースを担当したのは以下のメンバーで、彼らのケミストリーによりわずか4〜5時間で楽曲は完成。
・Syk Sense
・Smash David
・Tunji Ige
・Christopher McClenney
・Bajram Kurti
・Alfredo Gonzalez
iPhoneのGPS位置情報機能をテーマにしたラブ・ソングとして完成した"Location"は、まずSoundCloud上に音源が公開されて徐々に注目され、そしてモデル兼女優のKylie JennerがSnapchatのストーリーで紹介すると一気に話題となり、当時まだ無名だったKhalidは、ティーンのアイコン的存在へと一気に駆け上がることに。
Location
Khalid
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最終的にKhalidは[RCA Records]と契約し、"Location"は全米シングル・チャート最高16位を記録、そして第60回グラミー賞「Best R&B Song」にノミネートされるなど、デビュー・シングルながら大ヒットを記録。
[RCA Records]のA&R部門のトップを務めていたTunji Balogun(H.E.R., SZA, Bryson Tillerなどのアーティストと契約を結んだ人物で、2022年に[Def Jam]のCEOに就いたエグゼクティブ)は、Khalidについて「El Paso Times」のインタビューにて次のようにコメント。
「最初に聴いたのは"Stuck On U"(Khalidが2015年に自主制作した楽曲)だった。友人が送ってくれたんだけど、歌詞の成熟度に驚いたよ。彼はまだ17歳だったのにね。それから彼に注目するようになって、新曲が出るたびにどんどん感心させられ、そして曲を出す度にクオリティが上がっていったね。最初に彼に連絡を取ったのが2016年4月のことだった。彼が"Location"を出したとき、『なんてことだ。この子はヒット曲を作れるだけじゃなく、ボーカリストとしての才能もあって、年齢以上に成熟している』と驚かされたよ。"Location"で、全ての星が完璧に揃った感じだった。そして彼はすでに自分のコミュニティを築き上げていたんだ。彼はミレニアル世代で、アルバムを制作していた当時は18歳。同世代の子たちは、外部からの評価を気にせずにアーティストを好きになる。彼らはもうKhalidを受け入れていた。Khalidは楽曲を作るのがとても速くて、フル・アルバムを作るのに十分な曲が既に揃っていたんだ。彼が書いていたのは、高校時代の経験や、若さ、幻滅、そして恋を見つけようとすることについてだった。その瞬間を逃さないことが重要だと感じた。実際のところ、我々が彼のアルバムをこんなに早くリリースした理由は、彼自身が素晴らしいアーティストだからだよ。リリースを遅らせる理由なんてないのは明らかだったし、待つ理由なんてなかったんだ」
American Teen
Khalid
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