Michael Jackson相手でも例外なし。R. Kellyが「You Are Not Alone」で守り抜いた「作家の権利」
- R&B SOURCE

- 6月20日
- 読了時間: 6分
更新日:6月22日

史上初めて初登場1位を記録した「You Are Not Alone」
'95年9月2日、Michael Jackson(マイケル・ジャクソン)の「You Are Not Alone」が、全米シングル・チャート誕生以来、37年間誰も成し遂げられなかった「史上初の初登場1位」という偉業を達成し、ギネス世界記録に認定。
Michael Jackson - You Are Not Alone
しかしこの曲が制作された当時、Michaelは児童性的虐待の疑いで告発され、最終的には民事上の和解で刑事訴追は免れたものの、この事件によって彼のクリーンなイメージは一瞬にして崩壊。
世界中から浴びせられる容赦ない疑惑の目により、彼の人生で最も過酷だった時期。
そんな中、Michaelは自身のアーティスト生命をかけた渾身の2枚組アルバム『HIStory: Past, Present and Future, Book I』の制作を進めており、Disc 1には過去のヒット曲、Disc 2には当時の世間への怒りや自身の傷を吐き出す新曲が詰め込まれることに。
そしてMichaelがこのアルバムの最大の核として必要としていたものが、傷ついた自身の心を癒やし、世界中の人々の孤独に寄り添う「圧倒的なキラー・バラード」
その救いの手を差し伸べたのが、当時R&B界の新星としてヒットを連発していたR. Kelly(R.ケリー)。

実はR. Kelly自身も当時、母親を病気で亡くし、人生の深い喪失感と孤独の中にいた時期。
彼は自身の痛みをもぶつけるようにして1曲のバラードを書き上げ、それが「君は1人じゃない」というメッセージを込めた「You Are Not Alone」
R. KellyはMichaelに聴かせるデモ音源を作る際、「俺はMichael Jacksonだ」と完全に憑依させ、彼特有の息遣いやビブラート、フェイクまで完璧に模倣して歌い上げたという。
このデモを聴いたMichaelは激しく心を揺さぶられ、この曲を制作することを快諾したとのこと。

プロデュースは共同、しかし作詞作曲は100%R. Kellyの単独
シカゴのスタジオで2人による共同作業が始まり、Michaelはボーカル・アレンジを加え、後半の壮大なゴスペル調のクワイアの演出を取り入れるなど、楽曲をさらに高い次元へと引き上げることに。
そのため、公式のプロデューサー・クレジットには、R. KellyとMichaelの2人の名前が記載。

しかし、ビジネスの交渉において、R. Kellyは絶対に譲らない「一線」を引くことを決断。
それが、作詞作曲のクレジット、すなわち「出版印税」を完全独占すること。
まず大前提として、この「You Are Not Alone」はR. Kellyが作詞作曲を手がけた楽曲であり、その著作権を保有していることから、この曲がカバーされたり、テレビやラジオで使用されたりするたびに、R. Kellyへ印税が支払われる仕組み。
しかし音楽業界では、Michaelほどの巨頭がアルバムに楽曲を収録する際、外部の作曲家による作品であっても、アレンジや歌詞の微修正を理由に「共同ライター」としてクレジットに名を連ねる、いわゆる「カット・イン」が行われ、印税を分け合うことが半ば業界の常識。
しかも、大スターのアルバムに楽曲が採用されるという名誉を考えれば、多くの作曲家が喜んでその権利の一部を譲っていたのが、それまでの通例。
しかし、R. KellyはMichael側の要求に応じず、1%の権利も分け与えることを拒絶。

世界一のスターを前に、なぜR. Kellyはそこまでこだわったのか。
当時、ヒット曲を量産し、時代の寵児となっていたR. Kellyだったものの、業界全体で見ればまだ若手の存在。
そんな彼が、Michaelを前に「単独名義」を死守したのにはいくつかの理由があったと考えられ、そのひとつが「貧困から這い上がった自負」
米イリノイ州シカゴの過酷な貧民街で育ち、ストリート・ミュージシャンから自らの才能だけで這い上がってきたR. Kellyにとって、「自分で曲を書くこと」は命であり、自身のアイデンティティそのもの。
いくらMichaelが相手でも、自身の魂の結晶であるソングライティングの権利を明け渡すことは、自らの人生を否定するに等しかったため、Michaelの申し出を断ったものと推測。
もうひとつは、「対等なクリエイターとしてのプライド」
R. Kellyは、Michaelを神のように崇拝していたものの、盲目的に従う従属者としてではなく、自分が生み出した「最高の楽曲」という武器を持って、憧れの相手と対等に勝負したいという強いプライドがあったはず。
Michaelもまた、R. Kellyの並々ならぬ執念と、楽曲に宿る本物のパワーを認め、最終的に彼の単独名義のまま曲を収録することを受け入れることに。
一方で、R. Kellyにとって何より重要だったのは、「曲の根本的な所有権」を守り抜くことであり、その一線さえ越えなければ、アルバムの主役であるMichaelを共同プロデューサーとして立てることは、ビジネス上もメリットがあったため、クレジットへの掲載には同意。
これが正確な事実と言えそう。
こうしてR. Kellyが100%作詞作曲を手がけた曲として世に出た「You Are Not Alone」は、前述の通り全米シングル・チャート初登場1位という前人未到の記録を打ち立て、そしてMichaelにとっても「生涯最後の全米シングル・チャートNo.1シングル」という記念碑的な作品に。
Michael Jackson - HIStory: Past, Present and Future, Book I
盗作で訴えられた「You Are Not Alone」
結果的に、Michael Jacksonを相手に出版印税を1%も譲らず完全に独占したことは、R. Kellyのキャリアにおける最大のビジネス的勝利と言われることに。
しかしその数後年、ある作曲家から「盗作である」との裁判を起こされた「You Are Not Alone」
訴えを起こしたのは、ベルギー出身の双子の兄弟Van Passel Brothers。

彼らは'93年11月、「If We Can Start All Over」という楽曲の楽譜をベルギーの著作権協会に登録しており、そのメロディが「You Are Not Alone」と酷似していると主張。
以下が、Van Passel Brothersが手がけた楽曲。
Van Passel Brothers - If We Can Start All Over
この曲は、一般に広く商業リリースされたものではなく、当時は楽譜とデモ音源として登録された作品だったという。
これに対し、R. Kellyが「You Are Not Alone」を書いたことを示す最も古い証拠は、'95年8月。
この裁判は、約12年間にわたり争われた結果、「R. KellyがVan Passel Brothersの楽譜にアクセスし、それを元に曲を作った可能性が十分に認められる」と判断。
2007年9月にブリュッセル控訴裁判所が「盗作である」という最終的な判決を下し、Van Passel Brothersの勝訴で決着。
この判決により、ベルギー国内における「You Are Not Alone」の放送、および商業目的での販売や配信などが法的に一斉禁止。
そして、ベルギー国内におけるこの曲のすべての著作権が、R. KellyからVan Passel Brothersへと強制的に移転され、R. Kellyがベルギー国内で得ていた分の印税はすべて兄弟に支払われることに。
一方で、この判決はベルギーの法律に基づいたものであるため、効力はベルギー国内に限定されたもの。
また、この裁判はあくまで「曲を書いたR. Kellyが盗作をしたか」が争点だったことから、Michael自身に対する金銭的なペナルティや法的責任の追及は対象外。





































