雨の日の定番曲"Rain"
'70年代にデビューしたベーシストJaco Pastoriusの"Portrait of Tracy"をサンプリングした、切ないトラックが印象的な"Rain"。
「あなたの愛を私に浴びせて、雨のように」と歌うラブ・ソングで、'97年リリースのSWVのサード・アルバム『Release Some Tension』に収録されたこの曲は、全米シングル・チャート最高25位を記録。
「雨の日に聴きたい洋楽」の定番としてもお馴染みのこの曲は、タイトル名や歌詞のイメージ通り「雨の場面」を描写したMVも印象的ですが、このMVで多くの時間メンバー全員が座って佇んでいるのは、「リードボーカルのCokoが、メンバーLeanne "Lelee" Lyonsの靴に躓いて骨折したから」ということ。
そんなSWVの代表曲の1つ"Rain"ですが、実は元々Brandyの為に書かれた楽曲だったとのこと。
Rain
SWV
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Brian Alexander Morganが、Brandyの為に書いた"Rain"
"Rain"を手がけたのは、SWVのデビュー・アルバム『It's About Time』のメイン・プロデューサーを務め、セカンド・アルバム『New Beginning』でもInterludeを含む全5曲の制作を請け負ったBrian Alexander Morgan。
It's About Time (1992)
SWV
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"Rain"を収録したサード・アルバム『Release Some Tension』の制作が行われていた当時、Brian Alexander Morganは[Atlantic Records]と制作契約を結んでおり、この時に着手していたのが同レーベルの看板アーティストBrandyの楽曲制作で、Brian Alexander MorganはBrandyに"Rain"のデモ音源を提供したとのこと。
"Rain"のデモ音源は、米ニューヨークにある[Bad Boy Records]のスタジオ「Daddy's House Recording Studio」でBrandyがレコーディングをし、ボーカル・プロダクションはKelly Priceが担当。
Brian Alexander Morganは、'98年リリースのBrandyのセカンド・アルバム『Never Say Never』への収録を目指して"Rain"を制作していたものの、突然SWVの所属レーベル[RCA Records]からBrian Alexander Morganへ電話があったとのこと。
「COMPLEX」の記事によると、SWVのA&Rから「君の曲が無いと、SWVの本当のアルバムにならない。君が作っているこの曲("Rain")を聴いたんだが...」という話があったものの、次のよう答えたBrian Alexander Morgan。
「君達は、前回のアルバム(『New Beginning』)から俺の曲を1曲もシングル・リリースしなかった。何故、俺が何かを与えなくてはいけない?Brandyがこのレコードを満足しているから俺はハッピーだ」
Brian Alexander Morganは、全米シングル・チャート1位を記録した"Weak"を筆頭に、"Right Here"、"I'm So Into You"、"Anything"、"You're Always On My Mind"など、デビュー・アルバム『It's About Time』からのシングル曲の大半をが手がけ、SWVの人気が爆発したのは、紛れもなく彼の功績があってこそ。
しかし、SWVのセカンド・アルバム『New Beginning』でBrian Alexander Morganが手がけた以下の5曲はシングルカットされず、[RCA Records]はSWV人気を作り上げたBrian Alexander Morganのプライドを傷付けてしまうことに。
・Whatcha Need
・Fine Time
・What's It Gonna Be
・That's What I'm Here For
・Soul Intact (Interlude)
ちなみに、『New Beginning』に収録された"On & On"には、Brian Alexander Morganと親しいラッパーErick Sermonが参加しており(プロデュースもErick Sermonが担当)、恐らくBrian Alexander MorganのコネクションがあったからこそSWVとErick Sermonの共演が実現。
そんなBrian Alexander Morganの手回しに対して、恩を仇で返すようなやり方をとった[RCA Records]に対して、Brian Alexander Morganとしてはやるせない気持ちになってしまったのでしょう。
On & On feat. Erick Sermon (1996)
SWV
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[RCA Records]の対応を裏切りと捉えてしまったBrian Alexander Morganは、"Rain"をBrandyと一緒にやる意向を固めていたものの、[RCA Records]側からの猛烈な説得もあり、最終的に"Rain"はSWVの元へと渡されることに。
また、SWVのメンバーによると「Brandy自身が最終的に"Rain"を選ばなかった」と語っており、続けて「彼女がこの曲を欲しがらなかったことは嬉しかった。この曲が私達の生活を楽にしてくれたから」とコメント。
Brian Alexander MorganがSWVのサード・アルバム『Release Some Tension』で手がけた楽曲は、結果的にこの"Rain"1曲のみ。
加えて、"Rain"はSWVが'90年代にリリースした最後のシングルとなりました。
Release Some Tension (1997)
SWV
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Brian Alexander Morganの楽曲がシングルカットされなかった驚愕の理由
ここで単純な疑問として残るのが、「何故[RCA Records]はSWVのセカンド・アルバム『New Beginning』から、Brian Alexander Morganプロデュースの曲を、1曲たりともシングル・リリースしなかったのか?」という点。
SWVのデビュー・アルバム『It's About Time』は全米アルバム・チャート最高8位という堂々たる結果を残し、このアルバムからは"Right Here"のリミックス・バージョンもカウントすると、アルバムの約半数となる実に7曲もの楽曲がシングル・リリース。
全米シングル・チャート
Right Here
最高92位
I'm So Into You
最高2位
Weak
1位
Right Here (Human Nature Mix)
最高2位
Downtown
チャート外
You're Always On My Mind
最高54位
Anything
18位
しかも、全米シングル・チャートでトップ100入りを果たせなかった"Downtown"以外は、全てBrian Alexander Morganがプロデュースした楽曲。
誰の目から見ても、圧倒的としか言えないこれだけの結果を残したプロデューサーの楽曲を、次のアルバムでシングル・リリースしないのは少々不自然で、もしプロデューサーとアーティストの間で何か確執やトラブルが生じていたとしても、円満に制作が進められるようにレーベル側がその蟠りを解消するように努めるのが、売上を確保するために行わなければいけない立派な仕事の1つ。
しかし、Brian Alexander Morganが「COMPLEX」のインタビューに答えた内容によると、デビュー・アルバムにおける「ある事」が原因で、Brian Alexander Morganが制作した楽曲はシングル・リリースさなかったとのこと。
「SWVの初めてのアルバムは大成功し、トリプル・プラチナになった。そしてこのアルバムがきっかけで、アルバムに1人のプロデューサーと作詞家だけがクレジットされる時代が終焉を迎えた。俺は即座にターゲットにされたんだ。トリプル・プラチナになったアルバムのほぼ全ての制作を俺1人で行ったから、恐らく俺はSWVのメンバーや彼らのマネジメントよりも多くの報酬を得ることになった。まぁ、みんな自分達の成功に関わらず、この流れを早急にストップさせたかったんだろうね。だから、セカンド・アルバムでは俺の曲は1曲もシングルにならなかったけど、いくら何でもそれはやりすぎだと思う。多くのファンは『"Fine Time"がシングルになるべきだった』とよく言ってくれるよ」
New Beginning (1996)
SWV
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Lalah Hathawayのヒントがきっかけで生まれた"Rain"
SWVのデビュー・アルバムを手がけた時点では、まだ無名のプロデューサーだったものの、このアルバム1枚でいきなり大成功を収めてしまったゆえ、結果的に出る杭として打たれてしまったBrian Alexander Morgan。
しかし、結果を出したBrian Alexander Morganへの評価は一気に高まり、その後Usher, Missy Elliott, Faith Evansといったトップ・アーティスト達の楽曲を手がけていき、仕事を重ねていく中で出会ったLalah Hathawayからの助言が1つの転機に。
Brian Alexander Morganは、'94年にLalah Hathawayの"Let Me Love You"という楽曲を手掛け、この曲を制作している時に、"Rain"の元ネタであるJaco Pastoriusの"Portrait of Tracy"をLalah Hathawayから教えてもらったとのこと。
Let Me Love You
Lalah Hathaway
iTunes: https://apple.co/3UBcpxt
当時の様子を、「YouKnowIGotSoul.com」のインタビューでBrian Alexander Morganは次のようにコメント。
「Lalah Hathawayは天才で、ジャズの達人であり、彼女の存在自体がカッコよかった。'94年に俺が彼女の"Let Me Love You"を制作していた時、彼女が"Rain"の元ネタ("Portrait of Tracy")を教えてくれたんだ、本当に感謝しているよ。でも、俺は彼女に教えてもらっていたこの曲を、数年間忘れていたんだ。そしてある日、シャワーを浴びている最中に"Rain"のフック全体が突然俺の頭に浮かんだんだ。しかも、この楽曲に相応しいキーで聞こえた。俺はタオルを巻いたまま急いでスタジオに行き、サンプリング元の楽曲を確認したら、まさに同じキーだった。俺はこれがサインだと受け取ったよ。これが"Rain"が生まれた経緯さ」
世界的ベーシストとして活躍したJaco Pastoriusは、'87年に35歳という若さでこの世を去っていますが、Lalah Hathawayも2023年にX(旧Twitter)で次のようにポストしています。
「Jaco Pastoriusは、自分がソウル・ミュージックにどれほどの影響を与えることになるか想像できなかったでしょう」
"Rain"と繋がりが深いあのアーティスト
Lalah Hathawayのポスト通り、SWVの"Rain"がリリースされて以降、SWVとJaco Pastoriusにオマージュを捧げるアーティスト達は後を絶たず、中でも最も有名な1曲がラッパーChingyが2006年にリリースした"Pullin' Me Back"。
Jermaine Dupriがプロデュースしたこの曲は、"Rain"をベースにして作られ、Tyreseをゲスト・ボーカルに迎えた2000年代ヒップホップの名曲。
しかもTyreseと言えば、SWV"Rain"のMVにも出演しており、Tyreseにとっては何かと縁の深い楽曲に。
ちなみに、Chingyの"Pullin' Me Back"は、"Rain"の記録を上回る全米シングル・チャート最高9位を記録し、原曲を超える大ヒット曲となりました。
全米シングル・チャート
SWV - Rain
最高25位
Chingy - Pullin' Me Back feat. Tyrese
最高9位
Pullin' Me Back feat. Tyrese
Chingy
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"Rain"をサンプリングするアーティスト達
[RCA Records]の対応に不満を抱きつつも、結果的に"Rain"が大ヒットしたことにより、この曲がBrian Alexander Morganの人生を大きく変えることに。
というのも、"Rain"がヒットしただけでもBrian Alexander Morganにとって大成功だったものの、本当の意味での成功は"Rain"のリリースからしばらく経った後のことで、記述の通りこれまでに数多くのアーティスト達がこの曲をサンプリングしたことにより、予想しなかったことが起きたとのこと。
「"Rain"が俺の人生を変えることになったけど、ある素晴らしいことを全く予想出来なかった。この曲を様々なアーティスト達がカバーしてくれて、それらの曲がヒットしたことにより、俺の出版契約の債務を返済してくれたんだ("Rain"がサンプリングされる毎に、原曲の制作者であるBrian Alexander Morganにも一定の報酬が入り続けるため)。ジャズ・アーティストのNorman Brownが"Rain"をカバーし、彼のアルバムはゴールド・ディスクを獲得した。その後、ラッパーのMaster Pが"Ghetto Love"で"Rain"をサンプリングし、"Ghetto Love"を収録した彼のアルバム『MP Da Last Don』は400万枚も売れて、俺の債務を一挙に返済してくれたよ」
当時のチャートの結果だけを振り返ると、"Weak"や"Right Here (Human Nature Mix)"よりも結果が劣った"Rain"でしたが、SWVの楽曲の中でこの曲をサンプリング・ソースに選ぶアーティスト達は圧倒的に多く、これまでに数多くのアーティスト達が"Rain"にオマージュを捧げた楽曲を発表しています。
August Twelfth
Rain Down
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Marques Houston
Lay on Me
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Marzz
Rain Freestyle
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OG Parker, Chris Brown, PnB Rock
Rain Down feat. Latto, Layton Greene
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Coco Jones
Double Back
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Tamar Braxton
Changed
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