Des'ree「You Gotta Be」から見る、UK R&Bシーン。英国の黒人アーティストたちが長期的な成功を得るのは、困難なのか?


Des'ree「You Gotta Be」のヒットで注目を集めたUK R&Bシーン
英ロンドン出身のシンガーソングライターDes'ree。
彼女が、痛烈な失恋を経験し、深く傷ついていた時期に出会ったのが、「想像力や肯定的な言葉による自己暗示を通して、人生にポジティブな変化をもたらす方法」を説いた自己啓発書。
その本から得た学びを自身の経験と重ね合わせ、書き上げたのが「You Gotta Be」
「新しい1日の始まりに耳を澄ませて、未来が何をもたらすのか、それに立ち向かっていくの。
顔を上げて、空を見つめ続けて。
恋人との関係が、涙を流させることもある。
だから恐れを手放していい。
立ち上がって、自分の存在を示そう。
泣くことを恥じなくていい。
あなたならなれるわ。
強く、勇気を持って、もっと賢く、打たれ強く。
もっとタフに、もっと強く、冷静に、落ち着いて、自分をしっかり保ってるようになる。
私に分かっているのは、ただひとつ愛が、この日を救ってくれるということ」
Des'ree - You Gotta Be
そしてこの曲は、英国のみならず米国でも大ヒットし、全米シングル・チャートでは最高5位を記録。
「You Gotta Be」のヒットは、UK R&Bシーンが世界的な注目を集めるひとつのきっかけになったものの、当時このヒットの裏では、ある議論が盛り上がることに。
それは「英国で新たに登場した黒人スターたちは、デビュー作で記録した華々しいセールスを、息の長いキャリアへとつなげることができるのだろうか?」というもの。
このような議論にまで発展したこと自体、当時のUK R&Bシーンがいかに活況を呈していたかを示す、ひとつの証拠。
事実、Dina Carrollは'93年にデビュー・アルバムが大きな成功を収め、Eternalも'94年を代表する新人アクトとして注目を集め、そしてDes'reeは、「You Gotta Be」で世界的な大成功を手にすることに。
Eternal - Stay
しかし、当時懸念されていたのは、「過去の暗い歴史が、再び繰り返されるのではないか」ということ。
英国では、'80年代から'90年代初頭にかけて、Simply Red、Lisa Stansfield、Kenny Thomasといったアーティストが、自国でプラチナム超のセールスを記録。
さらに遡れば、'60年代にはThe Foundations、The Equals、Geno Washington & the Ram Jam Bandらが台頭。
'70年代にはThe Real Thing、Delegation、Maxine Nightingale、Susan Cadoganらが登場し、彼らの活躍により、英国のソウル/R&Bシーンを盛り上がりを見せることに。
ところがその一方で、'60年代、'70年代、'80年代に活躍した英国の黒人スターの多くが、'90年代になるとレコード会社との契約を失って次第に表舞台から姿を消し、だからこそ「You Gotta Be」の世界的な成功を目の当たりにした当時の業界が抱いたのが、こんな問いだったという。
「果たして、本当に状況は変わったのか?」
つまり、過去にもイギリスの黒人アーティストは何度も大きな成功を収めてきたものの、それが必ずしも長期的なキャリアには結びつかなかったという過酷な現実があり、この難題を乗り越えることが、当時の業界全体にとって大きな課題。
だからこそ、「You Gotta Be」が世界的な成功を収めたこの機会を逃さず、「今度こそUK R&Bを一過性のブームで終わらせない」という思いが、当時のUK R&Bシーンや関係者たちの間に強く生まれたとしても、決して不思議ではない話。
Des'reeは、「Billboard」のインタビューで当時の心境を次のようにコメント。
「黒人であろうと白人であろうと、才能というものは育て、成長させ、プロモーションし、後押ししていかなければならない。気まぐれな大衆がそのアーティストの名前を聞き、その名前から何を期待できるのか、そして自分がそれを好きになるだろうと分かるようになるまでには、時間もお金もかかる。人は誰しも、人生の中で何らかの偏見と向き合うもの。でも、黒人のイギリス人アーティストにとっては厳しい。私たちは人の2倍努力しなければならないのだから」

「R&Bアーティストを探しに、わざわざアメリカまで行く必要はない。ここに才能がある」
しかし、もちろん「You Gotta Be」が英国の黒人アーティストにとって、初めての世界的ヒットだったわけではなく、これまでもLoose EndsやSadeといったアーティストが英国から世界へと飛び出し、米国を含む海外市場で大きな成功を収めていたのは事実。
そして、その象徴的な存在となったのがSoul II Soul。
ロンドンのクラブ・シーンから登場したSoul II Soulは、ブレイクビーツ、ソウル、ヒップホップ、レゲエなどの要素を取り入れた独自のサウンド「グラウンドビート」を生み出し、その音楽性を象徴する「Keep On Movin'」や「Back to Life」が世界的なヒットとなると、彼らのサウンドは一気にメインストリームへと進出。
特に「Back to Life」は全英シングル・チャートで1位、全米シングル・チャートでも最高4位を記録。
Soul II Soul - Back To Life (However Do You Want Me) feat. Caron Wheeler
Soul II Soulは、英国のクラブ・シーンから生まれたブラック・ミュージックが、世界規模で成功できることを改めて証明。
つまり、英国の黒人アーティストが世界で成功する可能性そのものは、すでに何度も証明されていたものの、それでもなお、「その成功を一時的なブームで終わらせず、長期的なキャリアへつなげられるのか」という問題は残されていたのも、また事実。
しかし、こうした課題をただの懸念として終わらせず、実際に「長期的なキャリア形成」を意識した動きも、当時のUK R&Bシーンには存在。
その代表的な例のひとつが、ロンドンを拠点とする[Cooltempo Records]
長期的なキャリア形成を目標に掲げていた[Cooltempo Records]は、確固たるクリエイティブ・アイデンティティを持つシンガーたちと仕事をすることを重視しており、たとえばWorking Weekで活動していたJuliet Roberts、Massive Attackのメンバーとして知られるShara Nelson、そして当時すでにベテランの域に達していたMica Parisなどが在籍。
[Cooltempo Records]のA&RディレクターKen Grunbaumは、英国発のR&Bが海外市場で成功するためには何が必要なのかについて、次のような持論を展開。
「アメリカのアーティストやサウンドを真似しようとしても、まったく意味がない。伝統的に、アメリカがイギリスから取り入れてきたのは、BeatlesからPortisheadに至るまで、何かしら独自の『イギリスらしさ』を持ったアーティストたちだった。単なるコピーをわざわざ買うだろうか?」
Mica Paris - Stay
また、当時Eternalが在籍していた[EMI Records U.K.]のマネージング・ディレクターJean Francois Cecillionも、UK R&Bが持つ活力を高く評価。
「これは単なる流行ではなく、非常に深い文化的なムーブメントだ。イギリスの黒人コミュニティは非常にクリエイティブで、積極的に行動している。私たちは最近、そうした新しいアクトと何組も契約した。彼らが、次世代のヒットメーカーになるだろう。R&Bアーティストを探しに、わざわざアメリカまで行く必要はない。ここに才能がある」
Eternal - Just A Step From Heaven
しかし一方で、世界的な成功を手にしながらも、それを長期的なキャリアへと結びつけることの難しさは、今なおUK R&Bシーン全体が完全にクリアできていない課題のひとつ。
事実、Des'reeも「You Gotta Be」のリリースから4年後に発表した「Life」が全英シングル・チャートで最高8位を記録するヒットとなった一方、全米シングル・チャートにはランクインせず。
Des'ree - Life
とは言え、多くの関係者やアーティストたちが積み重ねてきた挑戦は、英国のR&Bシーンに新たな才能が育つ土壌を作っていくことになり、そしてDes'reeの成功後にはCraig Davidが世界的な成功を収め、その後も世界へ羽ばたくR&Bアーティストが世代を超えて登場。
Jeanが語った「ここに才能がある」という言葉こそ、現在に至るまで、英国のR&Bシーンが繰り返し示してきた可能性を象徴する言葉だったと言えそう。





































