J Dillaから「盗まれた」と主張され、Des'reeからは訴えられた、Janet Jackson「Got 'Til It's Gone」の真相。
- R&B SOURCE

- 7月6日
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うつ病の最中に制作された『The Velvet Rope』
'96年、Janet Jackson(ジャネット・ジャクソン)は当時所属していた[Virgin Records]と、アルバム4枚分の契約として推定8,000万ドル(約85億円)の提示にサインし大きな話題に。
この契約金は、兄Michael JacksonやMadonnaの契約を上回る当時の史上最高額。
しかも、Michaelの契約はアルバム6枚分に加え、映画出演なども含めた内容であったことを踏まえると、その破格ぶりを物語る数字。
間違いなく当時の音楽シーンの頂点にまで上り詰めたJanetは、その後自身6枚目となるスタジオ・アルバム『The Velvet Rope』制作に着手。
しかし、当時彼女は幼少期の「イジメ」などが原因でうつ病に苦しんでおり、この時の心境を 「Newsweek」の記事で次のように告白。
「とても悲しく、私は非常に弱っていたわ。絶望的で無力だと感じたり、私に向かって壁が迫ってきていると感じたこともあった」

また、Janetのキャリアを支えた最大のパートナーであるプロデューサーのJam & Lewis(ジャム&ルイス)も、レコーディング中の様子などから、彼女がうつ病を患っていることに気づいていたという。
そのため、前作『janet.』が約6カ月で完成したのに対し、『The Velvet Rope』は断続的なレコーディングが続き、完成まで約2年を費やすことに。
Janetは、「身体の細胞には感情が宿っている」と信じていたこともあり、コーヒー浣腸で体内の「悲しい細胞」を外へ排出しようと試みていたというほど。
キャリアでは頂点に立つ一方で、私生活ではうつ病と向き合う日々だったことから、まさに彼女にとって天国と地獄が同居した時期。
そんな複雑な精神状況に陥った最中に制作された『The Velvet Rope』は、あからさまな性的表現、人間関係の複雑さ、トラウマ体験などを歌った内容が主だった為、リスナーの評価は賛否両論分かれたものの、当のJanet本人はこの作品について次のようにコメント。
これらの歌を歌うことは、かつて私が埋めた痛みを掘り起こすことを意味していた。それはとても辛く、時には混乱もしたわ。でも、私はやらなければいけなかった。私は、自分の人生を通じて痛みを埋めてきた。私のセラピーは、自分の経験に基づいた内容で歌を書くこと。だから、自分が経験した出来事をいつも歌にしてる。『The Velvet Rope』を出したときは誹謗中傷もあったけど、自分が口にする全ての言葉に正直でいたかったわ」
Janet Jackson - The Velvet Rope
「彼らに盗まれた」
『The Velvet Rope』から以下の計6曲がシングル・リリースされ、ファースト・シングルとして発表されたのが、ラッパーQ-Tip(Q・ティップ)とフォーク・シンガーJoni Mitchell(ジョニ・ミッチェル)を迎えた「Got 'Til It's Gone」
・Got 'Til It's Gone feat. Q-Tip, Joni Mitchell
・Together Again
・I Get Lonely
・Go Deep
・You
・Every Time
公開された「Got 'Til It's Gone」のMusic Videoでは、南アフリカのアパルトヘイト時代を舞台に、ラウンジ・シンガーを演じるJanet。
その内容は「'60年代〜'70年代のアフリカの文化の融合に触発され、人種隔離と優越主義に反対した状況」を描いており、イギリスの音楽雑誌「Blues & Soul」は次のように絶賛。
「本物の力作だ。南アフリカのタウンシップでのパーティーのイメージを巧みに伝えている」
そして、このMusic Videoは第40回グラミー賞で「Best Short Form Music Video」を受賞。
Janet Jackson - Got 'Til It's Gone feat. Q-Tip, Joni Mitchell
この曲は、フューチャリングで参加したJoniの名曲「Big Yellow Taxi」をサンプリングするという演出でも話題に。
Janetは、Joniのフォーク要素と、Q-Tipのラップ・バースを組み合わせた理由を次のようにコメント。
「この2人には共通点があるの。それは彼らが書く歌詞は詩そのものだということよ」

また、Jimmy JamはかねてからJoniの「Big Yellow Taxi」がお気に入りの1曲だったということで、この曲を制作する前の状況を、Jimmyは「Red Bull Music Academy」のインタビューで次のように回想。
この曲はJoniへの電話から始まったんです。私はずっと彼女の'Big Yellow Taxi'が大好きでした。というのも、子供の頃にスケートリンクで滑っていた時にこの曲がよく流れていたから、私にとってずっと特別な曲だったんです。サンプリング好きの私としては、『いつかこの曲をサンプリングするか、あるいはこのサンプルを使った素晴らしい曲を作りたい』とずっと思っていました。そこで私はJoniに電話をかけて、「あなたの曲を使ったアイデアがあるんだけど、あなたがサンプリングについてどう思っているか分からなくて」と伝えたんです。すると彼女はこう言ってくれました。『聴くのが待ちきれないわ! 楽しんで作ってね、楽しみにしているから』」
Joni Mitchell - Big Yellow Taxi
実は「Got 'Til It's Gone」には、「Big Yellow Taxi」とは別にインスピレーションを与えた楽曲があり、それがファンク・バンドThe Brand New Heaviesの「Sometimes (Ummah Remix) feat. Q-Tip」だという。
この曲に関してJimmyは次のようにコメント。
「Q-Tipが'Got 'Til It's Gone'に参加することを知っていました。JanetはA Tribe Called Questの大ファンで、『絶対にQ-Tipに何かやってもらわなきゃ』と言い張っていたんです。だから私の頭の中では、音響的に『Q-Tipにとって最高に居心地の良い音の空間を作ってあげよう』と考えていました。当時、私の歴代お気に入りプロデューサーのひとりであるJ Dillaというプロデューサーがいました。彼がThe Brand New Heaviesの'Sometimes'という曲のリミックスを手がけていましたが、それがまさに彼らしい、絶妙に突っかかるようなストップ&スタートの、とにかくもの凄くファンキーなリミックスだったんです。それを聴いて私は『これだ、僕らもこういう雰囲気のものをやらなきゃ』と思ったんです。
The Brand New Heavies - Sometimes (Ummah Remix) feat. Q-Tip
「Sometimes」のリミックスを担当したThe Ummahは、ヒップホップ・グループSlum VillageのメンバーJ Dilla(Jay Dee)、そしてA Tribe Called QuestのメンバーQ-Tip、Ali Shaheed Muhammadの3人が結成したプロデューサー・ユニット。
彼らは、The Brand New Heaviesの他にも、Michael Jackson、Whitney Houston、Mint Conditionらのリミックスも担当。

Jimmyは、J Dillaのリミックスから「Got 'Til It's Gone」のヒントを得て、実際にJ Dillaのスタイルを参考にして制作をしたと公言したものの、この主張を真っ向から否定したのがJ Dilla本人。
彼の音楽性に迫った書籍「J Dilla's Donuts」の中で、J Dillaは次のようにコメント。
「彼らにアイデアを盗まれた」
また、2003年の「Dustbusters」のインタビューで、J Dillaは次のように説明。
「このトラックはみんなで協力して作ったんだ。ところがいざリリースされると、プロデューサーとして別の人の名前がクレジットされていた。クレジットを見てみなよ。Jay Dee(J Dilla)も、Q-Tipも、誰の名前も載っていないんだ」

一方のQ-Tipはこの件について、JanetやJam & LewisがJ Dillaの功績を横取りしたというよりも、自分たちのスタイルを模倣したのだと言及。
「俺たちがやっていたサウンドを聴いて、『ああいう感じをやりたい』と思ったんじゃないかな」
完成した曲の公式クレジットに自身の名前が記されていなかったことに憤りを感じたJ Dillaは、その悔しさをタイトルにも反映させた、その名も「Got 'Til It's Gone (Ummah Jay Dee's Revenge Mix)」を発表することに。
Janet Jackson - Got 'Til It's Gone feat. Q-Tip, Joni Mitchell (Ummah Jay Dee's Revenge Mix)
Des'reeに訴えられた「Got 'Til It's Gone」
そして実は、J Dillaとは別の人物が、「Got 'Til It's Gone」をめぐって訴訟を起こしており、それが「You Gotta Be」や「Life」のヒットで知られる女性シンガーDes'ree(デズリー)。
Des'reeは、自身が'92年に発表したシングル「Feel So High」と「Got 'Til It's Gone」のメロディに類似点があるとして提訴。
最終的に和解が成立し、出版ロイヤリティの25%にあたる約200万ポンド(約4億3,000万円相当)を受け取ることに。
当のDes'ree本人は、「The Irish Times」のインタビューで、この訴訟の目的は金銭ではなかったと弁明。
「Janetからお金を得ることが目的ではなく、この訴えは純粋に正義のためであり、自分の作品から借りたことを彼女に認めさせ、クレジットを与えてほしかった」
曲調こそ異なるものの、「Feel So High」の「Cause I feel so high away, I'm reaching out for your sky」と、「Got 'Til It's Gone」のファースト・バース「Have a feeling, now believing that you were the one I was meant to be with」には、メロディ・ラインの共通点があると言えそう。
Des'ree - Feel So High
偽装スクラッチ
様々なトラブルに見舞われながらも、結果的にJanet Jacksonのキャリアを代表する1曲となり、今なお多くのファンに愛され続ける「Got 'Til It's Gone」
この曲を象徴する要素のひとつが、随所で鳴り響くDJのスクラッチ音で、この音がヒップホップ色を際立たせる重要な役割を果たすことに。
しかし、Jimmy Jamが「Red Bull Music Academy」のインタビューで明かしたところによると、この音は本物のDJによるスクラッチではなく、彼自身が再現した「偽装スクラッチ」だったという。
「この曲を本格的なヒップホップのサウンドにしたかったんです。私はDJもやっていましたが、スクラッチはそんなに上手くなかったんです。そこで、スクラッチ風の音を入れて、できるだけ本物っぽく聴こえるように偽装することにしました。その後、ニューヨークのスタジオへ行ってQ-Tipにそのトラックを聴かせたら、彼は『素晴らしい、めちゃくちゃ理解できた、バッチリだ』と言ってくれました。彼はブースに入ると、自分のパートを完全にモノにしていて、そうですね、かかったのはせいぜい3テイクくらいだったんじゃないでしょうか。彼は完全に曲を掴んでいました。

そして、私たちにとって一番大変だったのはそこからでした。実は、Janetが歌うために全く別の歌詞と全く別のメロディを用意していましたが、それがどうしても上手くいきませんでした。曲の勢いをダラけさせてしまうような感じだったんです。ある日、いろんなメロディをいじって試行錯誤していたら、彼女がふと、鼻歌でサビを歌う、あの小さなラインを思いついたんです。それが結果的に、あのレコードの形になりました。出来上がった曲をJoniに聴かせたら、彼女は本当に気に入ってくれました。私たちは『これだけ苦労して作ったんだから、気に入ってくれるといいな』とハラハラしていたので、最高に嬉しかったです。この曲の制作は、私にとって本当に刺激的で素晴らしい経験でした。私たちがヒップホップを心から愛しているからこそ、『本物だと感じられるものを作りたい』と強く願った曲のひとつだったんです。私はヒップホップの人間ではないですが、どうしてもそういう空気感を出したかったんです。そしてQ-Tipが参加してくれたことで、この曲に本物としての説得力が生まれました。

今でもみんなに『あの曲のスクラッチは誰がやってるの?』って聞かれます。私は『あれは本物のスクラッチじゃないんですよ。ただそれっぽく騙しただけなんです』と答えるんです。もしみんながあの音に騙されてくれたなら最高ですね。だって音響的に、まさにみんなを騙して、まるでスタジオにDJがいてカッティングしているかのように思わせようとしていたんですから。それから曲中の『Joni Mitchell never lies (Joni Mitchellは絶対に嘘をつかない)」というフレーズは、Q-Tipがその場で即興で言った言葉なんです。彼がふとそれを口にした瞬間、私たちは『これは最高だ、彼女が'You don’t know what you got till it’s gone'って歌うたびに、毎回このセリフを挟み込もう』と決めたんです」







































