新しい手法を試みたサード・アルバム『Anytime』
ほぼ全曲の作詞作曲をBrian McKnight自身で行った'92年リリースのデビュー・アルバム『Brian McKnight』で、Brian McKnightのトレードマークとも言える都会的で上品なコンテンポラリー・サウンドが既に確立。
デビュー・アルバムをリリースした当初、アルバムの売り上げは伸び悩んだものの、4曲目のシングルとしてリリースされた"One Last Cry"が大ヒットしたことをきっかけに(全米シングル・チャート最高13位)、同アルバムは100万枚のセールスを超えるプラチナ・ディスクを獲得(全米アルバム・チャート最高58位)。
Brian McKnight
Brian McKnight
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"One Last Cry"が大成功したことにより、「この曲に似た雰囲気でアルバム1枚丸ごと書いてみよう」という意気込みで制作したのが、'95年リリースのセカンド・アルバム『I Remember You』
デビュー・アルバムと同様Brian McKnight自身がほぼ全曲のプロデュースを担当し、チャートの結果こそ前作を上回ったものの、セールスは約半数の50万枚でゴールド・ディスク止まり。
Brian McKnight ('92)
全米アルバム・チャート
最高58位
全米R&B/ヒップホップ・アルバム・チャート
最高17位
セールス
約100万枚 (プラチナ・ディスク)
I Remember You ('95)
全米アルバム・チャート
最高22位
全米R&B/ヒップホップ・アルバム・チャート
最高4位
セールス
約50万枚 (ゴールド・ディスク)
Brian McKnight自身、セカンド・アルバムの完成度は納得しているものの、過去のインタビューで次のようにコメント。
「成功の後にもう一度成功することは非常に難しい。プラチナ・ディスクの次はゴールド・ディスクだったから、一部の人達は失敗だと見做したが、俺はこのアルバムには最高の歌詞がいくつもあると思っている。『I Remember You』の擬似的な失敗がなければ、『Anytime』の成功はなかったと思う」
I Remember You
Brian McKnight
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そして'97年リリースのサード・アルバム『Anytime』では、外部からプロデューサーを招くという、これまでとは違った手法を試み、以下のメンバーが『Anytime』の制作に参加。
・Puff Daddy
・Stevie J
・The Characters
・Cory Rooney
・Ron "Amen-Ra" Lawrence
・Trackmasters
・Keith Thomas
・Peter Black
Puff Daddy, Stevie Jら[Bad Boy Records]のチームが制作した"You Should Be Mine (Don't Waste Your Time) feat. Mase"が、『Anytime』からのファースト・シングルとして選ばれ、この曲は多くのラッパー達から愛されたJames Brown"I Got Ants in My Pants"をサンプリングした、これまでのBrian McKnightのイメージをガラリと変えたヒップホップ・ソウル。
全米シングル・チャート最高17位を記録し、'97年のビルボード年間シングル・チャートでも86位にランクインしたこの大ヒット曲を、Brian McKnightは後に「Puff DaddyとMaseとの協力がプロフィールを向上させ、より広い観客に露出させた」と、しっかりとした結果を残した彼らの手腕を認めた一方、あくまでセールスを重視した義務的なやり方だったと振り返っており、過去のインタビューで次のようにコメント。
「作曲家として正当ではない」
You Should Be Mine (Don't Waste Your Time) feat. Mase
Brian McKnight
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「もしサンプリングできるなら、何も学ばなくていい」
アルバム『Anytime』でサンプリングされたのは以下の4曲で、"Jam Knock"以外はシングルカットされた楽曲(正確には"Everytime We Say Goodbye"も、Guy"Goodbye My Love"のボーカルの一部をサンプリング)。
Sample|Meshell Ndegeocello - Outside Your Door
1. Anytime
Sample|James Brown- I Got Ants in My Pants
3. You Should Be Mine (Don't Waste Your Time) feat. Mase
Sample|2Pac - I Get Around
7. Hold Me
Sample|Nu Shooz - I Can't Wait
11. Jam Knock
これらのサンプリング曲が話題となり、『Anytime』は全米アルバム・チャート最高13位を記録、全米R&B/ヒップホップ・アルバム・チャートでは自身初の1位を獲得し、200万枚以上を売り上げてダブル・プラチナを達成。
Anytime
Brian McKnight
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しかし、当のBrian McKnight本人は「サンプリング」という作曲手法に対して常に疑問を抱いていたようで、過去のインタビューで次のように持論を告白。
「もし自分の思い通りに出来たのなら、誰の曲もサンプリングはしなかった。他の誰かの曲をサンプリングして、その人に曲の一部を与えるなら、作曲家として正当ではないと思う。その代わりに、原曲を歌うアーティストが全てのクレジットを得るカバーをするほうが、作曲家として妥当だと感じる。サンプリングは、人々から創造性を奪っているとも思う。もしサンプリングができるなら、俺は演奏の仕方を知らなくてもいいし、何も学ばなくてもいい。ただ誰かの曲を使い、自分の名前を付ければいいからね。俺はこのやり方に賛成出来なかったけど、それでも探求したことはあるよ。だって、長い物には巻かれた方がいいだろ」
16歳の頃から作詞作曲を行ってきたBrian McKnightは、この時から1日中どこにいても作曲が出来る状態を維持し続けており、頭の中で常に4〜5曲の新しいアイデアが浮かび、それらを脳内に一時的に保存し、レコーディング時に脳内からアイデアをダウンロードするという、並の人間では理解出来ないほど容易く楽曲を作り上げてしまう天才肌(デビュー・アルバムの制作時、アルバムの収録曲候補として約150曲もの膨大な量をBrian McKnight1人で書き上げていたほど)。
アーティストとして非凡な才能を持っているだけに、Pro ToolsやAuto-Tuneといったデジタル・ツールの普及も音楽の質を下げた原因だと嘆くほどで(Brian McKnightはピアノやギターを使用して作曲する方法を好む為)、しかし米ニューヨーク出身のBrian McKnightはヒップホップへの理解も深く、サンプリングそのものを否定しているわけではないとのこと。
「例えば、A Tribe Called QuestのAli Shaheed MuhammadやDJ Premierらがサンプリングしたトラックは、非常にクリエイティブだと思うし、ただの平凡な模倣ではなかった。分かるよね?俺は他のどのエリアよりもニューヨークのヒップホップに傾倒する傾向があるんだ。なぜなら、彼らが作り上げたトラックは、とても創造性を感じたからね」
Sample|Vic Juris - Horizon Drive
Mass Appeal
Gang Starr
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原点回帰して誕生した最高傑作『Back At One』
サンプリングに関して独自の見解を示したBrian McKnightは、デビュー時から『Anytime』まで在籍していた[Mercury Records]を離れ、新天地[Motown Records]に移籍して'99年にアルバム『Back At One』を発表(前'98年に[Motown Records]からクリスマス・アルバム『Bethlehem』をリリース)。
一部Rodney Jerkinsらを迎えた楽曲を収録するものの、この作品ではサンプリングを封じ、デビュー時と同じくBrian McKnight本人がアルバム収録曲の大半を作詞作曲するという従来のやり方に戻し、過去最高となる全米アルバム・チャート最高2位を記録、2000年のビルボード年間アルバム・チャートでは48位にランクインし、300万枚以上を売り上げるトリプル・プラチナを達成。
Back At One
Brian McKnight
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このアルバムに収録されたのが、「1つ、君は夢が叶ったような人だ。2つ、ただ君と一緒にいたい。3つ、はっきりと分かるよ、僕には君しかいないんだ。そして4つ、1〜3を繰り返すんだ。5つ、そうやって君を惚れさせる。これをやり遂げたら、また最初に戻って始めるんだ(Then I'll Start Back at One)」と、世の女性達が望んでいるであろう、「男性にはこんな態度で接してほしい」という気持ちを先読みし、それを洒落た言葉で表現した表題曲の"Back At One"で、「全米中の女性が就寝前にこの曲を聴いていた」という都市伝説が生まれた世紀のラブ・ソング。
Santana”Smooth feat. Rob Thomas"に阻まれたものの、全米シングル・チャート8週連続2位という記録を残し、Brian McKnightは当時を次のように回想。
「『Anytime』が火花だったなら、『Back at One』で爆発した。あの時、俺は聴衆が聴いたり見たことがない、前例のないことをやったんだ。ポップ・ラジオに登場した若い黒人のバラード・シンガーは、これまでに何人いただろうか?」
Back At One
Brian McKnight
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ちなみに『Anytime』のリリース以降、Brian McKnightはサンプリングを一切封じたわけではなく、例えば2005年リリースの"Grown Man Business"ではMarcus Millerの"Much Too Much"を、2006年リリースの"Unhappy Without You"ではBilly Cobhamの"Heather"を使用するなど、自身がこだわる「独創性」を取り入れながらサンプリングを容認しています。
Sample|Billy Cobham - Heather
Unhappy Without You
Brian McKnight
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