Brian McKnightの黒歴史
「全米中の女性が寝る前に聴いていた」という都市伝説が生まれたほど、世の女性達を虜にした世紀のラブ・ソング"Back at One"を筆頭に、"Anytime"、"6, 8, 12"など、最高にロマンティックなラブ・ソングを星の数ほど残してきたシンガー/ソングライターBrian McKnight。
「正統派」としてのイメージが強い「R&B界の紳士」ですが、2012年に公開したある楽曲が世間から大バッシングを受けることになり、その楽曲が"If You're Ready to Learn"という楽曲。
If You're Ready to Learn
Brian McKnight
「もし君が学ぶ準備が出来ているなら」という意味のこの曲は、一聴するとBrian McKnightらしいロマンティックで美しいバラードに思えるも、「君のアソコの機能を見せてあげよう。僕のところに最初に持ってこなかったからね」と、R. Kelly顔負けの内容を歌ったお下劣ソングで、歌詞以上に大きな波紋を呼んだのがMVの演出。
教師役に扮したBrian McKnightが女性のアソコを解説する姿や、まるで宇宙飛行士のごとくバイブレーション型の乗り物に乗り込み、意気揚々と女性の体内へ突入していく様子など、「これ、本当にBrian McKnight?」と疑ってしまうシーンばかり。
この曲のMVを公開した直後にTwitter(現X)は大荒れになり、ファン達は次のようにツイート。
・「Brian McKnightに、この曲やMVが最高だと教えた奴は叩かれて首になるべき」
・「Brian McKnightは中年の危機に陥っているのか?(笑)」
・「Brian McKnightの曲の最大の問題は、曲が頭から離れなくて、明日も歌ってしまいそうになることだ」
結果、Brian McKnightは不名誉な形でTwitterのトレンド入りをしてしまうことになるも、当のBrian McKnight本人は「アダルト・ミックステープをやるというアイデアが浮かんだんだ。だから俺はSNSを通じて皆に尋ねたよ、『俺にどんなトピックに取り組んでほしいか』ってね。様々な種類の返答があったよ」と、あくまでファン達の意見を取り入れた上で"If You're Ready to Learn"を制作したとのこと。
また、Brian McKnightはライブでは常にユーモアを交えてファンを楽しませるなど、ユーモアを持った人物だということは周知の事実で、あくまでこの楽曲はジョークだと弁明。
しかし、このMVが消火不能なほど大炎上してしまい、Brian McKnightは動画を削除して次のようにコメント。
「もの凄く攻撃的な批判コメントをする人もいた。だから分かったよ、もうこういう曲は2度とやらないし、安全な曲をアップするよ。みんなユーモアのセンスがないね。でも面白いよね。子供達には殺人を歌った曲や、薬物を売る曲、女性をビッチと呼ぶ歌を聴かせる。野暮ったいかもしれないけど、全ての女性を満足させるために、俺はこの曲を書いたんだ」
Brian McKnightの真意は?
"If You're Ready to Learn"の一件が「売名行為だったのでは?」という意見が多くあがったものの、「TMZ」のインタビューでこの指摘を否定したBrian McKnight。
弁解内容は、後にいかようにも変更が可能だと考えれば、"If You're Ready to Learn"のMVをあの内容で公開した意図はBrian McKnight本人しか分からないかもしれませんが、この曲を制作した真意は、R&Bの曲をプレイするラジオ局が閉鎖したり、ヒット曲のクオリティが著しく低下したりと、R&Bシーン全体が衰退している状況に危機感を感じたゆえだったとコメント。
"If You're Ready to Learn"が発表された前年にあたる、2011年のビルボード年間シングル・チャートを振り返ってみると、PitbullとNe-Yoが共演した"Give Me Everything"や、Jennifer LopezとPitbullが共演した"On the Floor"など、当時の音楽シーンで大流行していたEDMを取り入れた楽曲がチャートの上位を席巻。
Chris Brownは"Yeah 3x"を、Ne-Yoも"Let Me Love You (Until You Learn to Love Yourself)"でEDMを歌い、しかもこれら超ハイスピードなダンス・ビートは、皮肉にも時流をキャッチしたことにより大ヒットしてしまい、R&Bシーンからスロウ・ジャムの「ス」の字も消えかかっていた時期。
「ニュー・ジャック・スウィング」にしろ「ヒップホップ・ソウル」にしろ、新しく流行したサウンドに対しては必ず一定数の抵抗勢力が出てくるのは常ながら、現在にかけて盛んに繰り広げられる「R&Bは死んだ」という議論の根源を辿ると、R&Bシーン全体がEDMを歓迎してしまった、この2010年代前期のR&Bの在り方に大方が辿りつくと言っても過言ではない、ある意味「R&Bシーンの黒歴史」とも言える時期。
多くのR&Bアーティスト、クリエイター達がこの時期に大なり小なり葛藤を抱え、その中の1人だったBrian McKnightが、シーン救済の為に放った一撃が"If You're Ready to Learn"。
過激な性描写をすることがベスト・アンサーだったかはさておき、ピアノやギターで作曲する方法を好むBrian McKnightは、Pro ToolsやAuto-Tuneといったデジタル・ツールの普及が音楽の質を下げた原因だと嘆き、また自身も「サンプリング」という作曲手法ですら「作曲家として正しくない」という理由で消極的だったりと、どこまでも正攻法でR&Bを作り続ける生真面目なアーティストだけに、Brian McKnightとしては従来のR&Bらしさが喪失してしまったシーンを見て、やるせない気持ちが募っていたのかもしれないですね。
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