「今夜はブギー・バック」は、En Vogue「Give It Up, Turn It Loose」のパクリなのか?
- R&B SOURCE

- 8月16日
- 読了時間: 6分
更新日:8月17日

「今夜はブギー・バック」は「Give It Up, Turn It Loose」のパクリなのか?
'94年、スチャダラパーと小沢健二のコラボレーションによって生まれた「今夜はブギー・バック」
日本語ラップの歴史的クラシックであると同時に、J-POPの枠を越えて、ひとつの「文化」になったといっても過言ではない名曲。
小沢健二 featuring スチャダラパー - 今夜はブギー・バック
ところが、この曲には長年、音楽ファンの間で語り継がれてきたひとつの疑惑があり、それが「'今夜はブギー・バック'は、En Vogue'Give It Up, Turn It Loose'のパクリなのか?」というもの。
実際に聴き比べてみると、ドラムの質感やメロウなコード感など、確かに似ている部分が多く、両曲がどれほど似ているのかを検証するYouTube動画まで作られているほど。
En Vogue - Give It Up, Turn It Loose
まずEn Vogueとは、オーディションをきっかけに結成された4人組女性R&Bグループで、メンバー全員が5オクターブの声域を持つ、'90年代を代表する実力派グループ。
そんな彼女たちの代表曲のひとつ「Give It Up, Turn It Loose」が発表されたのは、「今夜はブギー・バック」の2年前となる'92年で、アルバム『Funky Divas』に収録された楽曲。
この曲をプロデュースしたのは、En Vogueを結成し、彼女たちを成功へと導いたDenzil FosterとThomas McElroyによるプロデューサー・デュオ、Foster & McElroy。

そしてThomasは、この曲を制作した当時の状況を「SoulCulture」のインタビューで次のように回想。
「'Give It Up, Turn It Loose'については、俺の家で作ったのでよく覚えているよ。Denzilは、Guyの'Piece of My Love'やDeBargeの'I Like It'のコード進行からも影響を受けていた。俺はそこに戻って、ドラムの音を作り直した。Denzilが'Impeach the President'を使って曲の半分を書いたのを覚えている。残りの部分は後から一緒に作ったんだよ」
DeBarge - I Like It
また、Denzilが語ったところによると、彼はSoul II Soulのビートを参考に、この曲を作り上げたという。
そしてここが重要なポイントで、「Give It Up, Turn It Loose」は決して無から生まれた曲ではなく、'80年代R&Bやソウル、ファンク、ヒップホップなど、さまざまな音楽的要素を重ね合わせて作られた作品だということ。
一方、「今夜はブギー・バック」にも、複数の音楽的ルーツが存在。
そのひとつが、ヒップホップ・ユニットNice & Smoothの名曲「Cake & Eat It Too」
Nice & Smooth - Cake & Eat It Too
「今夜はブギー・バック」のトラックはこの曲を参照しているとされ、実際に「nice vocal」「smooth rap」という2つのバージョン名には、Nice & Smoothへの遊び心が込められているという。
さらに、ビートはSkull Snapsの「It's a New Day」をサンプリング。
Skull Snaps - It's a New Day
つまり、「Give It Up, Turn It Loose」も「今夜はブギー・バック」も、さまざまな過去の音楽を組み合わせながら楽曲を制作していたということ。
こうしたことは'90年代に限らず、ブラック・ミュージックのシーンではごく自然なことで、過去のソウルやファンクのレコードを掘り、そこからドラム、ベース、コード、ギター、ホーン、ボーカルなどを見つけ出し、新たな楽曲へと組み込んでいくことが、一般的な制作手法のひとつ。
「Give It Up, Turn It Loose」で使用された「Impeach the President」こそ、その代表例であり、このブレイクはEn Vogueだけではなく、数えきれないほど多くのアーティストが使用してきた、まさに定番中の定番。
The Honey Drippers - Impeach The President
当時のクリエイターにとっては、「誰かが使ったから自分は使えない」というより、「みんなが知っているあの音を、どう自分の音楽に変えるか」という発想が重要で、そこには現代の「オリジナリティ」という言葉だけでは測れない、サンプリング文化独特の美学があったと言えそう。
こうした制作背景を踏まえて「Give It Up, Turn It Loose」を改めて振り返ってみると、この曲は「Impeach the President」だけではなく、コード進行にはGuyの「Piece of My Love」やDeBargeの「I Like It」からの影響があり、さらにThe Emotionsの「Best of My Love」の要素も取り入れた楽曲。
Guy - Piece Of My Love
つまり、「今夜はブギー・バック」がパクリかどうかを問う以前に、「Give It Up, Turn It Loose」を聴いて、「この曲はEn Vogueだけのオリジナルだ」と捉えるのも、実際の制作背景とは少し違う話。
では、「今夜はブギー・バック」は本当に「Give It Up, Turn It Loose」を参考にしていないのか。
まず前提として、「今夜はブギー・バック」と「Give It Up, Turn It Loose」が似ていること自体は、音楽ファンの間で知られている事実。
実際、両曲をマッシュアップして聴いてみると、驚くほど自然につながってしまうほど。
しかし、「似ている」ことと「意図的に盗用した」ことは同じではなく、この疑惑については、スチャダラパーのANIも「Give It Up, Turn It Loose」を元ネタとする説を否定。
そしてこの話を考えるうえで、どうしても思い出したいエピソードがあり、それが、DREAMS COME TRUEの中村正人が、Earth, Wind & FireのMaurice Whiteに直接告白した、あるエピソード。
Earth, Wind & Fireの大ファンとして知られる中村は、DREAMS COME TRUEの「決戦は金曜日」を、Earth, Wind & Fireの「Let's Groove」とCheryl Lynnの「Got to Be Real」という2曲の要素を組み合わせて作ったという。
DREAMS COME TRUE - 決戦は金曜日
その後、憧れの存在だったEarth, Wind & FireのMaurice Whiteに実際に会ったときの状況を、「ナタリー」のインタビューで中村は次のようにコメント。
「あなたの音楽をさんざんパクって日本で売れてしまっています」
これに対し、Mauriceは次のように答えたという。
「それでいいんだ。私もJohn ColtraneやFunkadelic、Kool & the Gangからいろいろ盗んでる。そこにオリジナリティを足して次の世代に受け渡すのがお前たちの仕事だ」

Mauriceの言葉が象徴するように、ブラック・ミュージックの歴史において、そもそも「完全な無から生まれた音楽」という考え方は、あまり馴染まないもの。
Jazzも、Bluesも、Soulも、Funkも、Hip-Hopも、R&Bも、先人の音楽を聴き、そこから何かを受け取り、自分たちなりに変形させながら次の世代へと渡してきた歴史が存在。
そこに自分自身の感性や経験、言葉、メロディ、文化が加わった瞬間、それはまた別の作品として生まれ、そうした過去の音楽から影響を受けた楽曲たちが、音楽シーンを発展させてきたことは事実。
この事実を踏まえると、最後に生まれた作品をただ「コピー」と呼んでしまうのは、少し雑な話。
もちろん、音楽における盗用問題を軽く扱っていいわけではなく、明確に他人の作品をコピーし自分の作品として発表してしまうことと、先人の音楽から影響を受けて新しい作品を作ることは別の問題。
一方、すべてを「パクリ」という一言で片付けてしまうと、音楽がどのように発展してきたのかが見えにくくなり、「Give It Up, Turn It Loose」にしても、「今夜はブギー・バック」にしても、その背後には、さらに巨大な音楽史が存在していることも、紛れもない事実。
つまり、「Give It Up, Turn It Loose」をパクって「今夜はブギーバック」が生まれたという狭い話というより、「そのもっと前から存在していた音楽たちが、2つの作品を似た形として生み出したのではないか」というのが、この話の真相と言えそう。




































